漫画家のなり方

『鳥山明のヘタッピマンガ研究所』は宝の山! ―もと漫画家による感想文

鳥山明のヘタッピマンガ研究所 あなたも 漫画家になれる!かもしれないの巻 (ジャンプコミックスDIGITAL)

副題「あなたも漫画家になれる!かもしれないの巻」とあります。1985年刊。共著はさくまあきら氏。カットとして西村まさのり氏も参加。

志望者だった10代のころに読みました。かなり参考になる本だと思います。かく言うわたしは、青年誌の漫画家として13年生活しまして、経済的に破綻し現在は会社員をしておりますネコム(@necom_anarchy)と申します。

鳥山明氏によるマンガ形式で語られる、マンガ講座

序盤は鳥山明氏の描くマンガによる、マンガ講座。 読みやすいのだが「読みもの」としておもしろく描かれているので、逆にハウ・トゥとしては要点を抽出しずらい。

おとなになったいま、落ち着いて読めば「ここではなにが言いたいのか」ってのがわかるんだけど、マンガ形式に引きずられちゃうと、頭がごちゃっとする。

漫画家志望者として「勉強しよう」として読むなら、1話ごとにメモとって箇条書きにしてみるべきっすね。

ざっくりいうと「キャラクターは見た目の特徴がだいじ」「多彩な背格好でキャラクターの差別化を」「キャラクターには弱点を持たせる」「決めセリフを考えよう!」みたいなことです。

漫画家志望者にとっては基本ですが、具体例が描かれているので、ひと目で納得。則巻アラレちゃんの「特徴を盛る前の姿」、黒髪の少女のイラストなどが出てきます。

中盤はガチめのマンガ講座

中盤は「トリヤマ・マンガスクール」として、鳥山明氏の写真と、西村まさのり氏のカットによる「読み物として」ではないガチめのマンガ講座。 謎のコラボです。

図解でアナログの製図用品の使い方などが解説されている。

キャラのつくりかたとして、「まわりの友人の性格を大げさにする」とかの例が載っています。が、正直ここだけは参考にならない。

ジャンプ編集部として出すなら、既存の大人気作品のキャラから、逆算して「このキャラはこうして生まれた」みたいな実体験を作者にインタビューしてほしかったところです(鳥山明氏だけの分でもいいので)。

「登場人物が進む方向」についてや、「会話しているキャラ同士の視線を合わせる」などはマンガを描いていない人にとってはピンとこないでしょうけれども、描きなれていくうちに「なるほど」と納得できるノウハウです。

自分の描いているものがなんかおかしい、ギクシャクする、と感じたあとにここを読むと、改善できる感じ。

実際の投稿マンガ作品の添削

ここからが、じつはこの本のお宝部分です。

小学生から中学生くらいまでの年齢の読者の、マンガ投稿作品の添削が1ページずつ40作品分、載っています。

投稿者の年齢的に、ガチの漫画家志望者にとっては「ものたりない、勉強にはならない」と思いきや、具体例でダメ出しされるととても参考になる。

なによりまず、自分が「プロの漫画家よりちょっとだけヘタであろう」くらいに思っているであろう自分の絵が、印刷されてみると(プロの絵のそばにあると)もう全然、世界が違う。という実感。

他人が描いた絵であっても、「あーこんなに違うんだ」となる。「自分の絵も、自分ではけっこう上手いと思っているけど、こうなんだろうな……」と、冷静になる。ヒヤッとなる。

ぜんぶ「実際に見てみて!」といいたい細かいTIPS満載です。実例をあげると、

【1】2コマをつかって「キョロ」「キョロ」しているシーンを、「キョロキョロ」で1コマにまとめる、

【2】「住宅街に人物がボヤーッと現れる(どこかから転送されてくる)シーン」は、ボヤーッの前におなじ風景でなにもない背景だけのコマを入れるべき、

などです。これでわたしはコマ割りのリズム感がかなりととのいました。

流線や背景の上にカキモジを入れるときは、ホワイトでくくるべし。というのも、このあたりでわたしの脳にインプットされたのかな。

とにかく先人にありがとうといいたい

実際の投稿作品の添削って、本人が傷ついてしまったり、実名が残ったり、で現代ではたぶんむつかしい企画なんでしょうが。

見れる機会があると、とても参考になることうけあいです。

ちなみに、1977年=昭和52年の時点で手塚治虫氏による『マンガの描き方』ではスクリーントーンは避けるように書いてありましたが、

8年後(1985年=昭和60年刊)のこの本では、「日に焼けた黒い肌」の表現を手描きで斜線を描いてあることに対して、「61番はってくだせー」とアドバイスされていました(61番はスクリーントーンの種類のこと)。

手描きの線が主流な風潮から、スクリーントーン推奨の世論に変わっていった変遷などもうかがい知れて興味深いです。

そんなわけで、コミックス形式ということもあって比較的、安価な本なので、マンガを描く人にとっては、手にとって損はないと思います。

参考:鳥山明のヘタッピマンガ研究所 あなたも 漫画家になれる!かもしれないの巻 (ジャンプコミックスDIGITAL)