漫画家の老後―悲惨な末路を回避する「リミット」の考え方

あなたの「漫画家としての理想の人生」は、どんな形ですか?
メジャーな少年誌or少女誌で10代のうちにデビュー、20代で連載が大ヒット。アニメ化、ゲーム化、映画化、マルチメディア展開。
印税ガッポガッポ。30代からは半隠居。不動産運用などを人にまかせつつ、自分は気が向いたときにエモい短編を描く。とかでしょうか。
これはわたしが中学生のときに理想としていた漫画家人生です。
こんにちは。プロ漫画家を13年やりまして、現在は会社員のネコム(@necom_anarchy)です。
漫画家の人生計画と老後。「リミット」を意識せよ!
「理想の漫画家人生」でななかった場合、後戻りできない可能性が

このブログを読んでくださっている方は、身にしみてご存知のケースが多いとは思いますが、漫画家って「なる」こと自体がすごく大変です。
また、デビューだけはしても「継続して漫画家でありつづけること」も、デビュー自体より大変だとも言われています。
そんな全速力で坂道を駆け上がりつづけているような人生で、睡眠時間もなく、判断力もにぶり、人生設計や老後のことなんて考えていられるでしょうか。
「考えないようにしている」、「そのうちなんとかなる、と信じる」という方が多いのではないかと感じます。
まさに、自分がそうでした。
「40歳までに売れなかったら、諦めて地元に帰りなさい」

わたしが20代のころバイトしていた校正事務所の社長に、上記のようなことを言われました。
校正とは、雑誌や本の文章の間違いをただす仕事です。「校閲」ともいいます。
(ふつうは出版社の編集部内で校正しますが、たまに編集者の手が足りない場合や、文芸専門ではない出版社からの依頼が来ます)
それはともかく。この校正事務所の社長は兼業で、現役のドキュメンタリー作家をしていました。
「40歳を過ぎたら、再就職がとてもむつかしい」
と、知り合いの作家さんの話を聞かされました。
デビューはしたが芽が出ずに、ずっと奥さんに働いて食べさせてもらっていた。
40歳を期に地元に戻って、教師として就職した。
「それまでは寝ないでも食わないでも、死ぬ気でがんばれ」
一般的な会社員として就職できる年齢のめやす

↓以下の記事でもふれましたが、会社員として就職するには、ちょっとした年齢上の区切りがあります。
それが35歳と40歳で、35歳までならなんとか、その業界がはじめてでも新人として教えてもらえるギリギリの上限。
先輩として教えてくれる社員が、20代のことが多いです。あまりに年齢が離れていると、気まずがられます。
40歳を過ぎると、まず雇ってもらうのがキビシイです。せっかく雇って教えても、定年までの残りの年数が絶対的に少ない。
こちらも教える先輩社員の側が年下なことが多い。また、35歳をすぎると、何かしらのスキルが熟練していないと採用してもらいにくい。
漫画家はネットスキルがある人が多いので、そのへんを押していくといいと思いますが。
売れない漫画家は結婚できない。女性の初婚リミットは40歳

余談ですが、女性には別でもうひとつリミットがあって、やはり子供を生みたいとか結婚がしてみたい、とかあるのではないでしょうか。
(売れてない)漫画家とつきあってると結婚してくれないですよ。してるカップルもたくさんいるけども。
自分が生活するのにもイッパイイッパイな状態で、相手のご両親にご挨拶とか食事会とか、結婚式の準備とかお金とか、将来的には子供とか。
いろいろ考えたらそりゃ無理だわなぁ、って今になったら思います。
……すみませんこれは個人的なグチですが。
ネットのお見合いサイトなどを見ていても、40歳以上で女性って、ほぼ見かけません。男性は50代でも60代でも、なんだったら80代でも複数人います。
結婚・出産を考えている女性の漫画家さんは、ちょっと頭に入れておくといいかも。
※初婚でないなら、その限りではないと思います。
漫画家は個人事業主。損切りも考えに入れて
「諦める力」BY『ブログ飯』

漫画家も個人事業主なんですよね。税金とか自分でマネジメントしなければいけない。
たくさん稼いだつぎの年は、税金たくさん持ってかれますよ! 貯めとかなきゃダメですよ!!
アシスタントを使わないと仕上げられないスケジュールなら、いま自分がしていることが「ギャンブル」だと強く認識しておきましょう。
最近、いまさら『ブログ飯』を読んだのですが。
そこにも「諦める力」ってことが書いてありまして、事業がうまくいかないなら損切りする。これが事業主の責任であるみたいなことが書いてありました。
インプットができない状況ならいずれはツブれる

わたしが東京で漫画の連載をしていたころは、家賃でとにかくキュウキュウで、映画の1本も見に行く余裕がありませんでした。
お金も惜しいし、時間も心配。ハラハラする。落ち着いて観ていられない。
ほかの作家さんのコミックスですら、悩んで悩んで買う状態。
こんなの、長続きするわけないですよね。
渦中ではもう原稿を仕上げるので精一杯で、ほかのことは何も考えられませんでした。
でもそんな中で、バイト先の社長が言っていた「死ぬ気でがんばれ」は、できていた気がする。
自分も40歳にもうなろうとしている。ちょうど連載が途切れた。
ので、廃業する運びになったのでした。
「悲惨な老後」をどうしても想像してしまう

ほかにも、30代後半になって、まわりの編集者がみんな自分より若くなったり。
年上の編集者も、「そろそろ定年後のことを考えておかなけりゃ」と言っていたり。
ヒットを出していない自分が、どんどん仕事がなくなる未来が予測できた。
アシスタントに行くことも多くなり、アシスタント仲間としてたまに出会う、40代~50代の「もと漫画家」さん。
この方たち、貯金がかなりあったらこんな過酷な現場に来るはずないよな。いくらマンガ好きだからといっても。
不安しかなかった。
ずっと心の中では「漫画家」でいていい

そんなこんなで、廃業し実家に戻りました。
ほぼ人生を諦めてたけど、毒親なので実家にいるのがいやで(ドレイあつかいyo)、夫を見つけて家に転がり込みました。
(というか、そも漫画家になりたかったのも、「中高生のうちに稼ぐ手段を得て、実家を出たかった」という側面もあります)
自殺しようかとも考えたけど、おばあちゃんにあんなに可愛がってもらった幼女の自分が、のちに自死を選ぶなんて、そんな報われない物語はないな。
と作家の自分が待ったをかけました。
自分が描いたのが雑誌に載らなくても、わたしは作家だった。
(なんかカッコイイ言い方をして申し訳ありません)
いまはまだあんまり絵を描く気にはならないけど、傷が癒えたら、また。
描いてもいいよね。と、思っております。
漫画家の老後―悲惨な末路を回避する「リミット」の考え方:まとめ

- 年齢によるリミットを頭におかないと、後戻りできない可能性がある
- 40歳までに売れなかったら漫画家/小説家は廃業を考えてみては
- 生活基盤をたててから、趣味としてまたやってみればいい(こんどこそ売れっかもよ!!! と、個人的な希望)
以上です!!